素敵な再会

October 22.2022

10月後半にしては暖かで穏やかな日曜日。遅めに起きて窓を開けたら空気が気持ちよかったのでドライブがてら久しぶりに展覧会に出かけました。9月のまだ暑い軽井沢で再会した方は私より一回りほど年上で、長身色白な品性のある素敵な女性。11年前に旦那様を亡くしてからしばらくお会いする機会も減り、時々、お元気だろうか?と思い出していた。そんな彼女から旦那様の展覧会が開催されると連絡を受けて、ちょうどその時期に居合わせた軽井沢でチケットを受け取りました。変わらない優しい笑顔に安堵して、日々の過ごし方など互いにお茶を交えて話す楽しい時間を過ごしました。

世田谷美術館で開催されている”宮城壮太郎展ー使えるもの、美しいもの”日常の中で何気なく使っているものが実は壮太郎さんのデザインだった。ペネロープのバッグを気に入って使って下さっていたと奥様は会うたびに私に言ってくれる。愛される物には優しさとユーモアと情熱と努力や経験値が詰まっている。展覧会では作品だけでなくご自身が気に入っていたものも展示されていて、その中でも引き出しいっぱいに詰められたミニカーを見た時、胸が熱くなった。壮太郎さんの子供のような笑顔と書斎に大切に並べられたミニカーが蘇ったからだ。

巡る思い出とたくさんの刺激を胸に砧公園を散歩して、平穏な日常がとても素晴に思えたのでした。

「宮城壮太郎展ー使える物、美しいもの」

https://www.setagayaartmuseum.or.jp/

ミュージアムショップで購入した図録とバーミックスのピッチャー

 

家で過ごす時間のこと

September 2.2021

次のウェア新作をご紹介出来るまでもう少し。家で過ごす時間が否応なしに増えているので、今どんな過ごし方をしているか少しお話しします。ずっと思ってたけれどなかなか時間を費やせなかったギターの練習を始めました。正確には10年程前に独学で練習した時期もあったのですが、弦を押さえコードやタブラチュア譜(五線譜を用いず運指や操作の仕方などを記号で示したもの)に沿ってゆっくりゆっくり弾いてみたり…難しくて上手くいかない事だらけ。手が小さいから無理!といつしかギターはベッドの下で長い眠りについていたのです。上手いかどうかは別として歌うことが好きな私は時々気の知れた友人たちとカラオケで盛り上がったりして楽しい時間を過ごすことがありました。残念ながら今はそんな時間も持てません。ベットの下からギターケースを取り出し蓋を開けたのはそんな淋しさからか?その昔頂いた1935年生まれのGibsonギター。少しお金をかけてメンテナンスに出し美しい音を奏でます。ある程度の基礎がないと先に進めないと自らを課し、月に一度ギターの個人レッスンにも通い始めました。歳を重ねるにつれ勉強することが増えていくのは物事への興味が尽きないとも言えるし、個人の探求から学ぶことはペースが許され、競争も取り残されることもない愉しみに変わります。これからは急ぐことなくゆっくり進むことが大切と深く考えるようになりました。そうすることで広く全体を見て感じ取ることができるし不思議と物事や考えがどれも繋がっていることに気づきます。1曲、2曲とコードを押さえながら歌える曲も少しずつ増えてきました。隣近所から苦情が来ないことを祈ります…笑

早く日常が戻り皆で歌ったり笑い合える日が来ると良いですね。

     

1935年生まれのGibson       ”A Salty Dog Rag”(タブラチュア譜面)

この他、大瀧詠一や大貫妙子などの単純なコード進行の曲を練習中。

Archives-のための作業

September 9.2020

昨年(2019)9月に初めての製品が上がってきて一年、2シーズンで小物を含め10種のアイテムができました。ゆっくり進むつもりで始めたブランドも作ることについての自己評価はまぁまぁ。では、仕事としての評価は?当然のようにまだまだです。時間をかけるべきことは経験の中でも充分分かっているつもりでも焦ることもあります。ateliersPENELOPE を立ち上げて23年ほど経ちますが今までいったい幾つのアイテムを作ってきたのか?時々古くから居るスタッフに昔の形のことを言われても名前と形が一致しない。それどころか全く忘れている物も少なくありません。自分のためと言っていいのですが、これからの自分にアーカイヴを残すことにしました。古風が抜けない私としてはデジタルはアーカイブになりません。紙媒体として残すことでその時の感覚が蘇ることを本が好きな方には分かってもらえるはず。。大袈裟な物ではなく小冊子です(笑)でも私にはグラフィックの知識はなくて、少し前から構想していた案をプロに形にしてもらうため頭の中にあるイメージをどう伝えたらいいのか?これ私が一番苦手とする作業です。考えた末、自分なりのダミーを作ることに。始めてみれば楽しい作業で工程の中でアイデアも浮かんできました。明日はこれを持って青山で打合せです(青山で打ち合わせってなんかオシャレ!)目標10冊、無事やり遂げたなら潔くやめてもいいんじゃない?って自分に言い聞かせてみました。


(さらに…)

心の引き出し

june 25.2020

春から秋に向けて2シーズン目のウェアが揃いました。今回は岡山で織られた上質なコットンギャバにオリジナルカラーをエアウォッシュ(洗い染)という手法で染めた生地を使っています。今までに使用してきた素材のほとんどは生機(織りあがったままの状態の生地)を染色した後に水通しや軽石を入れて当たりをつけるバイオウォッシュなど洗いの工程は全て別に行うものでした。エアウォッシュは洗いながら染めてゆく手法で仕上がりが柔らかく細かい皺によってフワッとした空気感と滑らかな肌触りを感じます。バッグに使用する帆布のような厚手の素材には難しそうですが今回のコットンギャバのように中肉厚の素材には適しているのではないかと思います。しかし色によっては染めムラを起こすなど難しい加工で正直なところ失敗により使えなかった生地も少なくはありません…これも経験という名の勉強です(汗)。

コットンギャバシリーズCarver(カーヴァー)という名のスモック風コートジャケット(私の中ではワークウェアに属す)を作ったいきさつを。。

Carver=彫刻家、憧れの職業です。すっかり遠い記憶ですが神奈川に住んでいた頃、深夜のTVK(テレビ神奈川)でヨーロッパ映画ばかり放映していたことがありました。そこで観た映画には記憶に残るものが幾つもあって再び観たいと探してみたけれどほとんどDVD化されていないようでいまだ叶わず。イギリス人の女優シャーロット・ランプリング演じる彫刻家と彼女を師と仰ぐ少女の関係を描いた美しく官能的な仏映画「美しさと哀しみと」(1985年)そこで描かれる彫刻家のイメージは凛とした佇まいの中に厳しさと女性らしさを併せ持つもの。いつか女流彫刻家の着る作業着をイメージして洋服を作ってみたいと心の片隅に閉まっておいたそんな思いを今回引っ張り出して実現してみたのです。映画の中の服については実は全く覚えてはなくて、ほとんど似つかないものに仕上がっていると思いますが。そんな風に強い記憶の引き出しは実は心の中に沢山あって、いつか開けられ表に出される時を待っているのかもしれません。

「美しさと哀しみと」については映画のエンドロールによって原作が川端康成であることを知り直ぐに読みましたが、1965年日本映画のリメイクであったことは後に知り最近になってNETFLIXで観ることができました。惜しくも亡くなってしまった八千草薫はシャーロットに劣らない魅力を漂わせ改めて日本人では好きな女優のひとりであると再確認したところです。これからどれくらい引き出しを増やせることか…もちろん忘れ去ってしまうものもあるのでキャパは変わらないですね、きっと。

*Carver=彫刻家という名のスモック風コートジャケット

洋服作りを掻き立てたもの

June 1, 2020

アトリエを借りて一年が過ぎウェア作りもなんとか2シーズン目。まだまだやるべき課題が山積みです…さて、そんな“洋服を作ってみたい“という思いはいつ頃からだろう?遡れば思い当たるのは母のこと。思えば私が小さい頃に着ていた洋服はそのほとんどが母の手作りでした。胸にシャーリングの入ったブルーのスモックやチューリップ柄が編み込まれたニットワンピース。小学校の入学式、卒業式のスーツに至るまで。ミシンの傍に積まれた生地が形になるのをよく眺めていたものです。細かい手作業のディティールは今でも鮮明に記憶していて、母はもちろんデザイナーではないけれど作るものは今思い出してみても決して古臭く感じる事はない。着る人を想像したり作りながら変えてみたり、時には素材の思い通りに任せてみたり、そんな風にデザインは形作られていくのではないかと感じます。

好きなファッションは?

30代の頃、夢中になった映画のヒロイン、ミア・ファロー。彼女のファッションに魅了されストーリーは二の次にシーンごとの洋服の一つ一つを見るのが楽しみでした(ウディ・アレンと結婚するずっと前の頃、1960年代)妖精のように不思議な魅力を漂わせ個性的で洗練されたスタイルはどこか色気のある少女のようでいて時に無垢な少年のようにも見える。掴めない曖昧さが魅力なんだ!

1967年のLIFEに彼女のプライベート写真が紹介されています。そこには映画やファッション雑誌を飾った華やかなものではなく、くたびれたニットとスラックス。私はこの写真がとても好きでこれが上級スタイリッシュだと今でも思っています。素敵な服を着れば素敵になれる訳ではありません…素敵な人が着て洋服は生かされるのかもしれません。それは自分に似合うもの、変わらず好きなものを持つ人ではないかと。

と、いろいろ考えると洋服作りって難しいのですね。。今はとにかく楽しんでいますので。

 

1967年刊行のLIFEに掲載されたミア・ファロー

 

January 31, 2020

初めまして…私はateliersPENELOPE(アトリエペネロープ)の代表兼デザインを努めている唐澤明日香と申します。かれこれ20数年も前になりますが代官山に小さなマンションの一室を借りて手作業でバッグを作り始めました。オリジナル素材など到底作れるはずもなく生地問屋で切売りしてもらった重たい生地を持ち帰っては夜中(時々朝)までミシンを踏んでいた日々をとても懐かしく感じることがあります。自分のアトリエを持ったことの嬉しさと生まれてくるアイデアを形にする事で少ないながらお金に変わっていくのが喜びだったのでしょう。アトリエを守る事が自分の使命のような気がして先の見えない雲を掴むような状況に不安を感じたことは無かったように思えます。歳を重ね経験を持った今そこに帰ることはできないけれど、再びそんな状況に自分を置きたいと今年5月にアトリエを借りて今まで仕事としては経験のない洋服づくりを始めました。どうやら雲の中でもがくのが好きみたいです(笑)このDesgner’s Roomでは見たもの感じた事、好きなもの(時に嫌いなもの)などを日記のように綴っていく予定です。お時間を許せば覗いて見てください。