心の引き出し

june 25.2020

春から秋に向けて2シーズン目のウェアが揃いました。今回は岡山で織られた上質なコットンギャバにオリジナルカラーをエアウォッシュ(洗い染)という手法で染めた生地を使っています。今までに使用してきた素材のほとんどは生機(織りあがったままの状態の生地)を染色した後に水通しや軽石を入れて当たりをつけるバイオウォッシュなど洗いの工程は全て別に行うものでした。エアウォッシュは洗いながら染めてゆく手法で仕上がりが柔らかく細かい皺によってフワッとした空気感と滑らかな肌触りを感じます。バッグに使用する帆布のような厚手の素材には難しそうですが今回のコットンギャバのように中肉厚の素材には適しているのではないかと思います。しかし色によっては染めムラを起こすなど難しい加工で正直なところ失敗により使えなかった生地も少なくはありません…これも経験という名の勉強です(汗)。

コットンギャバシリーズCarver(カーヴァー)という名のスモック風コートジャケット(私の中ではワークウェアに属す)を作ったいきさつを。。

Carver=彫刻家、憧れの職業です。すっかり遠い記憶ですが神奈川に住んでいた頃、深夜のTVK(テレビ神奈川)でヨーロッパ映画ばかり放映していたことがありました。そこで観た映画には記憶に残るものが幾つもあって再び観たいと探してみたけれどほとんどDVD化されていないようでいまだ叶わず。イギリス人の女優シャーロット・ランプリング演じる彫刻家と彼女を師と仰ぐ少女の関係を描いた美しく官能的な仏映画「美しさと哀しみと」(1985年)そこで描かれる彫刻家のイメージは凛とした佇まいの中に厳しさと女性らしさを併せ持つもの。いつか女流彫刻家の着る作業着をイメージして洋服を作ってみたいと心の片隅に閉まっておいたそんな思いを今回引っ張り出して実現してみたのです。映画の中の服については実は全く覚えてはなくて、ほとんど似つかないものに仕上がっていると思いますが。そんな風に強い記憶の引き出しは実は心の中に沢山あって、いつか開けられ表に出される時を待っているのかもしれません。

「美しさと哀しみと」については映画のエンドロールによって原作が川端康成であることを知り直ぐに読みましたが、1965年日本映画のリメイクであったことは後に知り最近になってNETFLIXで観ることができました。惜しくも亡くなってしまった八千草薫はシャーロットに劣らない魅力を漂わせ改めて日本人では好きな女優のひとりであると再確認したところです。これからどれくらい引き出しを増やせることか…もちろん忘れ去ってしまうものもあるのでキャパは変わらないですね、きっと。

*Carver=彫刻家という名のスモック風コートジャケット

洋服作りを掻き立てたもの

June 1, 2020

アトリエを借りて一年が過ぎウェア作りもなんとか2シーズン目。まだまだやるべき課題が山積みです…さて、そんな“洋服を作ってみたい“という思いはいつ頃からだろう?遡れば思い当たるのは母のこと。思えば私が小さい頃に着ていた洋服はそのほとんどが母の手作りでした。胸にシャーリングの入ったブルーのスモックやチューリップ柄が編み込まれたニットワンピース。小学校の入学式、卒業式のスーツに至るまで。ミシンの傍に積まれた生地が形になるのをよく眺めていたものです。細かい手作業のディティールは今でも鮮明に記憶していて、母はもちろんデザイナーではないけれど作るものは今思い出してみても決して古臭く感じる事はない。着る人を想像したり作りながら変えてみたり、時には素材の思い通りに任せてみたり、そんな風にデザインは形作られていくのではないかと感じます。

好きなファッションは?

30代の頃、夢中になった映画のヒロイン、ミア・ファロー。彼女のファッションに魅了されストーリーは二の次にシーンごとの洋服の一つ一つを見るのが楽しみでした(ウディ・アレンと結婚するずっと前の頃、1960年代)妖精のように不思議な魅力を漂わせ個性的で洗練されたスタイルはどこか色気のある少女のようでいて時に無垢な少年のようにも見える。掴めない曖昧さが魅力なんだ!

1967年のLIFEに彼女のプライベート写真が紹介されています。そこには映画やファッション雑誌を飾った華やかなものではなく、くたびれたニットとスラックス。私はこの写真がとても好きでこれが上級スタイリッシュだと今でも思っています。素敵な服を着れば素敵になれる訳ではありません…素敵な人が着て洋服は生かされるのかもしれません。それは自分に似合うもの、変わらず好きなものを持つ人ではないかと。

と、いろいろ考えると洋服作りって難しいのですね。。今はとにかく楽しんでいますので。

 

1967年刊行のLIFEに掲載されたミア・ファロー